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最高裁判所第二小法廷 昭和32年(オ)587号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人大貫大八の上告理由一点について。

論旨は、本件において今市市選挙管理委員会がポスターに検印した違法行為は、自由民主党公認の八木沢善吉の当選を得しむる目的で故意に検印したものと推定でき、選挙の自由公正を害するものであるから、選挙の結果に異動を及ぼす虞がある場合に該当すると主張する。

しかし、本件の場合、委員会がポスターに検印したことが違法であることは原判示のとおりであるが、上告人が原審においてポスター検印の違法行為が八木沢候補の当選の便宜を図る目的で故意に為されたものと主張した形跡は認められない、のみならず原審は、本件ポスタ―が掲示されたのは、その枚数を最大限に見ても一四〇枚、掲示された時間は、選挙の前日午前〇時三〇分頃から一時間三〇分ないしは二時間三〇分位で、この時間をはるかに超えたと認められるのは一枚だけであり、又その文言は「市長に八木沢(又はやぎさわ、ヤギサワ)を自民党今市支部」とあるに過ぎないこと、本件選挙における候補者二人は旧今市町民にはよく知られておつて、その立候補の事実並に八木沢善吉が自由民主党に属することは本件ポスターの掲示された選挙の前日には、今市市民には既にあまねく知られていたものと認められること、及び右両名の得票が八木沢善吉一〇、三〇八票、朝倉武夫九、一〇二票でその差は一、二〇六票であつたこと等諸般の事情を綜合して、本件ポスターの掲示がなされたがため選挙人が投票意思を決定する上において多大の影響を受けたものとは到底認めることができず、即ちかかるポスターの掲示がなかつたならば二候補者の当落について現実に生じたところと異つた結果を生じたであろうとの可能性があつたものとはいい得ないと判断し、そして本件における違反ポスターに対する検印並びにこれが掲示の所為が本件選挙の結果に異動を及ぼす虞があるものと認めることができないと判示した原判決は正当であつて、所論の違法はない。

同二点について。

論旨(1)は原判決は検印の違法につき選挙管理が公正に行われず選挙の自由公正が害せられたかどうかの判断が為されていないと主張するが、一点に説明したとおり、原審は諸般の事情を考察して、本件検印の違法は選挙の結果に異動を及ぼす虞れがないものと判断しているのであるから、右の違法があつても選挙の自由公正の原則が著しく害されたものと認めなかつたことも自ら明かである。論旨引用の判例は本件に適切でない。論旨(2)は違反ポスターの影響力の重大なことを主張するが、原判決も影響力を無視しているわけでなくただ本件の場合、右掲示の時間も短かくその他諸般の事情を考察して、結果に影響があつたものと認められないとしたのであつて、その判断は正当である。論旨は理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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